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ランチ20食のラーメンを提供していた
創作居酒屋が手にした世界最高峰の栄光

WRGP×大重食堂

2017年11月30日と12月1日の両日にわたって繰り広げられた世界規模の創作ラーメンコンテスト「第4回 WORLD RAMEN GRAND PRIX(ワールドラーメングランプリ):以下WRGP」。452名のエントリーの中、見事、優勝の座に輝いた大重食堂(福岡市)の大重洋平氏に、総合プロデューサーの河原成美氏がインタビューした。 (取材は同12月21日に行われた)

一風堂創業者
WRGP総合プロデューサー


河原成美氏

大重食堂 オーナー


大重 洋平さん
桃子さん

河原話を聞く前に、優勝を勝ち取った「純らーめん七節(以下、七節)」を一杯いただいたら、ついついお代わりをして、二杯も平らげてしまった(笑)。あらためてゆっくり味わったけど、いやあ、いいラーメンでした。ごちそうさまでした。そして、WRGPの優勝、おめでとうございます。

大重ありがとうございます。

河原まずは「七節」がどんなラーメンなのか、あらためて聞かせてください。

大重スープは「平戸(長崎)のあご」「羅臼昆布」でとった出汁と、自家製の「牛節」「豚節」「鶏節」「ふぐ節」「鰹節」「真鯖節」「鰯節」と7種類の節からとったものを合わせます。

河原節はコーヒー用のサイフォンで抽出するんだよね。

大重はい。麺は福岡県産ラーメン専用小麦ラー麦を100%使用した細麺。そこに鹿児島県のブランド豚、茶美豚を48時間塩麹に漬けた焼豚をのせ、大分県産の蘭王の煮卵と東峰村(福岡)のキクラゲ、有明海の焼き海苔と博多万能ネギをトッピングしました。

河原大会終了後、念のために上位者のラーメンのカロリーを専門機関で計測したのですが、「七節」はなんと428キロカロリー。これだと、お年寄りも、女性も、ダイエット中の方も安心して食べられる。

大重幅広い年齢層に喜んでいただいています。

料理のベースとして生まれた節とサイフォンでの抽出法

河原そもそも、このラーメンはどんな経緯で生まれたんですか。

大重和食、洋食、エスニック店での修行を経て7年前に独立し、小さな創作料理店をオープンしました。当初はベースとなるフォンやブイヨンなどのスープをとっていたのですが、動物系の節をつくることを思いついたんです。サイフォンでの抽出という方法ならば、動物系のスープを必要なだけ取ることができると考えたからです。

河原なるほど。節もサイフォンもラーメンのためではなかったんですね。

大重ええ、フレンチで10年以上前に考案されたアイデアで、いつか試してみたいと思っていたんです。肉系のスープは何時間も炊いて、煮詰めて、濾して、苦労してつくっても、冷蔵庫だと日持ちがせず、冷凍庫だと香りが落ちてしまいます。一方で節を作るには数カ月かかるのですが、抽出は数分ですみます。

河原それをラーメンスープとして活かそう、と考えた。

大重はい。ただ、実は「ラーメンにだけは手を出してはいけない」と思っていたんですよ。私自身は昔からラーメンが大好きですが、いざ作るとなると、マニアが多くて、万人に受ける味はない。こんな難しい料理はありませんから。

河原確かに商売としてラーメンに取り組むのは簡単ではありません。

大重ただ、このサイフォンでのスープの抽出をもっと多くの人に楽しんでいただきたくて、その宣伝のためにランチでラーメンを提供することを考えました。試作を重ねましたが、どうにもパンチが足らない。当初は5種類の節でしたが、そこでさらに2種類をプラスしたら味がまとまったんです。

河原そうやってできた「七節」を提供し始めたのは、つい最近なんですよね。

大重はい。今年(2017年)の7月で、ちょうどその頃に、知人からWRGPのことを聞いたんです。「出てみたら」と。

河原すごいタイミングでしたね。

大重テーマは600キロカロリー以下で、日本を感じる商品、日本を表現すること。「もしかしたら、うちのラーメン、ど真ん中じゃないか」と思いました。気になったのはカロリーだけでした。すぐに日清の「どん兵衛」を買ってきてもらってカロリー表示を見ると409キロカロリー。これならクリアできると確信しました。とにかくエントリーだけでもしてみよう、と。

眠る時間を削ってつくった印象を残すための鰹節レンゲ

河原書類審査をパスしてファイナリストに選ばれたと通知が来た時はどんな気持ちでしたか。

大重店のみんなで抱き合って喜びました。「ヨッシャー!」とガッツポーズしたりして。ただ、正直に言うと、そのときは、どれくらいすごいことなのか、よくわかっていませんでした。まわりの方から「本当にファイナリストに残ったの? それはとんでもないことだよ」と言われて、だんだんと実感が湧いてきました。

河原ぼくも正直に言うと、実は書類選考ではあまり高い評価をつけていませんでした。大重さんはそもそもラーメンの経験がないし、本当に一杯のラーメンとしてまとめる力があるのだろうか、と。サイフォンでのスープの抽出というのも、まったく新しいアイデアではないしね。

大重後から知ったことですが、すでにサイフォンを使った人気ラーメン店があったんですね。

河原だから一次審査を通過した後に、ぼく自身が大重食堂を訪ねて、もし一定のレベルに達していない場合は、おこがましいことだけど、まとめるための方向性だけでも話したほうがいいんじゃないか、と思ったりもしました。結果的には忙しくて店を訪れることができなくて、さらに言えば、その心配自体が杞憂だったわけだけどね。

大重決勝大会が近づくにつれて緊張が高まってきて、そわそわするけど、やれることがないんです。それで、鰹節を削ってレンゲを作ってみたり(笑)。

河原ああ、鰹節のレンゲはよかったね。ただ、審査では「このレンゲも味の一部になっているから、原価に入れるべきじゃないか」といったように、議論を呼んだんだよ。結果的には「レンゲは食材に入らない」というところに落ち着きました。

大重そうだったんですね。レシピは変えられないので、なにか印象に残ることはないかと必死で考えたんです。実はお箸も作ったんですが、難しすぎてうまく合わないのと、弱くてすぐ折れる。あのときは眠る時間を削って、鰹節を削っていました(笑)。

河原その甲斐はあった。

大重他のファイナリストのラーメンの画像をみると、どれも素晴らしくて、それに比べて「七節」は圧倒的に地味でした。でも、いまさらトッピングを変更するわけにもいかず、だったら器だけでも普段の黒じゃなくて白にしてみようと。

河原それは良い判断だったと思う。スープがクリアなのが、よくわかりました。トップスリーは僅差だったので、もし黒のままだったら、順位が変わっていたかもしれない。第一印象は重要ですからね。

いつもの4人でいつもの仕事
30杯を出しきることに集中

河原前日、決勝大会の会場に入ったときはどうでしたか。

大重誰も座っていない会場を見て、ここに審査員が並んだら、圧倒されるだろうな、と思いました。仕込みはそれほどなかったので、シミュレーションを終えて帰ろうとしたら、スタッフの方から「余裕ですね」と言われまして……。急に不安になったんですが、いくら考えても、それ以上やることがなかった(笑)。そのあとは、通天閣のビリケン様の足の裏を「明日はどうかお願いします」と撫でに行きました。

河原迎えた当日、大重食堂は最も多い4人での参加でした。

大重普段、店を営業しているようにやろうと話しました。審査員ではなく、お客さま。だったら、お待たせするわけにはいかない、という気持ちでした。後はとにかく楽しんでやろう、と。

河原だからリズム感がよかったんですね。

大重コンテストへの参加は今回が初めてで、実際はすごく張り詰めていました。前のファイナリストが曲とともに入場して、ユニフォームもその日のために作ってこられていて、またプレゼンテーションが素晴らしい。ああ、ここまで用意しなければならなかったのかと、かなり焦りました。

河原確かに会場は独特の緊張感がありますからね。

大重本当は2日目だったら良かったのにな、と思っていたんですが、結果的には1日目の前半でよかった。2日目だったら、たぶん緊張でフラフラになっていたと思います(笑)。

河原調理ではどの点に最も集中しましたか。

大重与えられた40分間にすべてのラーメンを出し切ることです。実はランチはいつも20杯程度だったので、30杯を一気に、作ったことがなかったんです。

河原そうだったんだね! まあ、しかし、すべてが良い方向に働いてよかった。

長時間という価値を無効化するまったく新しいラーメン

河原優勝を告げられた瞬間は?

大重頭が真っ白になって、「うれしいです」「ありがとうございます」という小学生みたいなコメントしか出来なかったのが、今に思えば悔しくて。サポーターの3人はみんな涙ぐんでいたんですが、コメントを聞いた瞬間にずっこけたそうです。「えっ! それだけ?」という感じで。

河原正直に言うけど、「もっとちゃんと話してくれよ」と思ったよ(笑)。

大重すみません。でも、それくらい「用意していなかった」わけです(笑)。

河原うん、それはよくわかる。

大重ともあれ、人生において、最高の瞬間となりました。

河原ぼくたちは2日間で16杯のラーメン(1日8杯)を食べるので、完食しないようにセーブするんですが、この「七節」が一番残りが少なかった。ぼくの隣の席の千葉ちゃん(『ちばき屋』店主・千葉憲二さん)なんか全部平らげちゃった。

大重うれしいですね。

河原実はこのコンテスト、キッチンでは20人ほどの一風堂のスタッフがサポートをしていました。彼らはプロだし、一風堂はたくさんのイベントに参加するので、多くのラーメン職人の仕事ぶりを見てきています。スピード、ていねいさ、人に対する感謝の表し方……彼らの意見を聞いても、大重食堂はとても評価が高かった。

大重恐縮です。

河原次回はサポートスタッフの評価も得点化しようと思っていますが、もし今回、その評価基準があったとしても、大重食堂は間違いなく優勝していたと断言できます。

大重審査ではどのようなお話があったんでしょうか。

河原多くの審査員が「新しいラーメンの可能性を感じた」と話しました。ぼく自身、すごくヒントになった。

大重それはどういう点ですか。

河原たとえば豚骨スープは、「20時間以上炊いています」なんていうのは当たりまえ。そこを「職人の腕の見せ所」と強調したりします。一方でこの「七節」の場合、そういう意味での見せ所がないわけです。極端に言えばお客さまの目の前で、わずか5分でできてしまう。つまり「時間をかける」=「こだわり」といった公式は、このラーメンの前にあっさりと崩れる。

大重なるほど。

河原でも、決してインスタントじゃない。その製法自体に、実に多面的な魅力があります。そうした意味で「ラーメンってもっと可能性があるな。奥深いな」とあらためて思うことができました。すごく感謝しています。

大重そう言っていただけると光栄ですね。

気になる賞金1000万円の使い途

河原優勝後の反響はどうですか。

大重帰りの新幹線に乗っている時から携帯電話が鳴りまして、「世界一おいしいラーメンが食べられるのは、その店なのか」という問い合わせが来たり……。

河原ああ、微妙に勘違いしていらっしゃるけど、でも、もし「世界一おいしいラーメン」という前提で来てもらっても、満足させられるラーメンだと思いますよ。実際、お客さまは増えたでしょうね。

大重はい。限定30食なので、今は整理券をお配りしています。

河原さて、賞金の1000万円ですが、どのように使う計画ですか。

大重ラーメン店を出店したいと思っています。小さな店でいいんですが、純喫茶の雰囲気の中で、このサイフォンでスープをとるラーメンが提供できれば、と。

河原それはいいですね。

大重それから、中洲(福岡市博多区)に姉妹店の居酒屋があるので、そちらをラーメン中心の店舗に業態変更しようと考えています(2018年2月を予定)。そこでは夜でも召し上がっていただけるようにしたいと考えています。

河原そうなると、他のラーメンも作りたくなるね。

大重今回、グランプリへの出場でたくさんのアイデアをもらえましたし、いろんなラーメンに挑戦したいですね。

大重食堂
〒810-0023 福岡県福岡市中央区警固1丁目8−20
http://www.bigheavykitchen.com/ooshige_shokudo
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